墨田住人の備忘録

色々な情報に接して得心することは多いけれども、40を過ぎてからすぐに忘れてしまうので備忘録として書こうと思う。

会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから

 発行されたのは一年近く前であるが、最近この本を読んだので感想を少し書く。

 

 本書は消滅した三洋電機とその社員について記録したものだ。私は三洋電機と同じ電機業界に属する会社に勤務していたので、この10年余りの激動期を遠目には見ていた。しかし、当時の認識としては、経営悪化の原因は2004年の新潟中越地震の被害が大きな要因なので、いささか同情の目を向けていたように思う。

 最初のうちは同情的だった世間(とりわけマスコミ)の目が厳しくなったのは、経営内容が悪化していることよりも社長の世襲と野中会長就任だったと思う。その頃から内紛が続いて決定的な危機を迎えるまでは、どちらかといえば最近の大塚家具のようにゴシップ的な好奇の目にさらされていたので、経営危機の本質的な問題はぼやけていたように思う。この本を読んで、ゴタゴタの前段階として抱えていた問題を幾分理解できたように思う。

 

 10年ほど前には私は業界団体の活動に関係があったので、当時の三洋の社員でも顔が思い浮かぶ人もいる。2000年代初頭のITバブルがはじけて、多くの電機メーカが大赤字を出していた頃には、三洋はソニーやシャープとともに「3S」と言われて勝ち組として賞賛されていた。各社のトップを眺めてみても井植、出井、町田の3人は格段のオーラを放っていた。勿論マスコミ各社も名経営者と持ち上げていた。それが今や3人ともが戦犯扱いというのは何とも皮肉であり、勝てば官軍、負ければ・・・ということなのだろう。

 

 本書の主旨は、解体された三洋電機の社員の「その後」ということだが、ドキュメンタリーと言うにはやや美しすぎるかなと感じた。三洋で幹部だった人やその後ある程度充実した社会生活を送っている人の話が多いので、愛社精神があったり三洋の時代を懐かしんだりということが強調されている。でも、もっと実際は会社や経営陣への恨みがある人もいるだろうし、悪者として描かれているパナソニックや金融サイドの人達の言い分もあるだろう。インタビューになど絶対に応じない埋もれた人たちの苦しみは、もっとドロドロしているのではないかと思う。

 

 三洋電機の破綻は、地震による被害は単なるきっかけあって、根本的な要因は経営トップの放漫経営であるというのが著者の見解なのかと思う。本書を読めば、確かに井植敏の判断ミスは拭いようがないもののように感じる。しかし、2000年代前半のあの頃、リスクを取らない経営によってサムソンに半導体でメタメタにやられ、トップダウンの決断をする経営者への異常なまでの賞賛は何だったのか。リスクを取って経営資源を投じた三洋も、ソニーも、シャープもそれを言ったら同じく間違いを犯している。それどころか、少し時期は遅れるけれども、プラズマへの巨額投資を行ったパナソニックなどは最も酷い判断ミスだった。結果を見れば、リスクを取った事業はほとんど数年で失敗しているのだから、経営者の質云々ということではないのかもしれないと思う。ソニーやパナがあれほど手酷い失敗をしながらも何とかやっているのは、会社そのものの体力があったからという事に過ぎないのではないかと思う。一旦何かでつまづくと、負の連鎖から抜け出すまでには時間がかかる。本書でも井植・野中両氏が必死にもがいても泥沼にはまりこんでいくのがわかる。その時間を何とか耐えるだけの体力を持たないと、会社はいつ何があってもおかしくないということなのかもしれない。しかし、10万人の社員を抱えて2兆円の売上規模を持つ会社でも10年も持たないのだから、この先も何があるかわからないのだと考えさせられる。当時はまさかこんなことになるとは、当事者も部外者も想像していなかった。

 

会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから

会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから